3年前の2022年、2月。それは寒い冬の終わりの出来事だった。 あの日のことは今でも鮮明に覚えている。寒い部屋で凍えながらTwitterを見ていた時、ふとタイムラインに流れてきたベリーロングアニマルズ発売の投稿。8体の顔の長い動物の絵が並ぶその様は、今でこそ見慣れてしまったが、当時は異様なほどに斬新だった。

私は、とにかくこの長い顔の動物の絵を買わなければならない、という衝動に駆られた。 ただの平凡なサラリーマンの私がなぜ、そのような衝動に駆られたのか。その答えをこれからできる限り説明してみたいと思う。
閉塞感に満ちた日常からの逃避願望

当時の私は、いわゆる「平凡なサラリーマン」という言葉がぴったりな人間だった。毎日同じ時間に起き、夜遅くまで会社に尽くす。やりがいがないわけではないが、心のどこかで「このままでいいのだろうか?」という漠然とした不安が常に渦巻いていた。
代わり映えのしない毎日。会社と家を往復するだけの生活。何者にもなれない自分への焦り。そんな灰色の日々に、あの顔の長い動物たちは、突如として現れた闖入者(ちんにゅうしゃ)だったのだ。
彼らの「異様さ」と「斬新さ」は、私の凝り固まった日常に風穴を開ける、強烈なインパクトを持っていた。論理的な説明はできない。ただ、この絵を手に入れることが、今の退屈な日常から抜け出すための「鍵」になるのではないか、という直感が働いたのだ。それは、現状を変えたいという心の叫びだったのかもしれない。
ただの絵じゃなかった。「Twitterコミュニティ」という新しい居場所

なけなしのボーナスをはたき、初めてのNFT購入に戸惑いながらも、私は無事に一体の「ベリロン」を手に入れた。そして、自分のTwitterアイコンをその顔の長い動物に変えた。それが、新しい世界の扉を開く合言葉だった。
ベリロンには、特定のクローズドなコミュニティはなかった。あるのは、ただTwitterという広大な広場だけ。しかし、自分のアイコンを変えた途端、世界は一変した。
タイムラインを眺めると、自分と同じように顔の長い動物をアイコンにした人々が、そこかしこに現れたのだ。「#VeryLongAnimals」というハッシュタグを追いかければ、そこには温かい交流が広がっていた。誰かのツイートにリプライを送れば、すぐに別の長い顔の仲間から返事が来る。夜になれば誰かがスペース(音声会話)を始め、アイコンでしか知らなかったはずの人々の生の声が聞こえてくる。
年齢も、職業も、住んでいる場所もバラバラな人々が、ただ「ベリロンのアイコンである」という一点で繋がり、毎日のように語り合っている。そこには、会社のような面倒な上下関係や利害関係は一切なく、誰もがフラットな立場で、好きなことについて熱く語り合っていた。
会社での評価や肩書きが全てだと思っていた私にとって、それは衝撃的な体験だった。自分の発言が誰かに喜ばれ、自分のアイデアが面白がられる。会社という小さな世界でしか自分の価値を測れなかった私が、初めて「ここにいてもいいんだ」と思える、新しい居場所を見つけた瞬間だった。
祭りのあと、そして未来へ

3年という月日が経ち、あの熱狂の日々は少しずつ落ち着きを見せている。あれだけ顔の長い動物たちで溢れかえっていたタイムラインも、毎晩のように開かれていたスペースも、今では少し静かになった。それぞれの生活に戻り、新しい挑戦を始めている仲間もいるだろう。
ふと、夜空を見上げながら思う。 あの頃、リプライやスペースで夜通し語り合った仲間たちは、今頃どこで何をしているのだろうか。 新しいプロジェクトに夢中になっているだろうか。それとも、私と同じように、時々あの熱い日々を思い出しているのだろうか。
ベリロンの価格がどうなったかは、もはや私にとって些細な問題だ。もちろん、価値が上がれば嬉しい。しかし、それ以上に得たものの価値は、計り知れない。
あの時、私が衝動的に買ったのは、単なる顔の長い動物の絵ではなかった。 それは、閉塞感の漂う日常から抜け出し、新しい世界へ踏み出すための「きっかけ」であり、自分の人生を自分の意思で歩むための「コンパス」だったのだ。
祭りの後のような、少しの寂しさと、心地よい余韻。 でも、不思議と悲しくはない。なぜなら、Twitterという広場で生まれた繋がりは、決して消えてしまったわけではないと信じているからだ。
またいつか、あの顔の長い動物たちのもとで、最高の仲間たちと再会できる日が来る。 私は、そんな夢を見ている。そして、その日まで、このコンパスを頼りに自分の道を歩いていこうと思う。
ほんの少しの好奇心と、小さな一歩が、人生を劇的に変えることがある。 私の人生を変えたのは、顔の長い、あの動物たちだった。
次回予告:情熱が、創造へ

あの冬に灯った情熱の炎は、ただ心を温めるだけでは終わらなかった。 会社と家を往復するだけだった僕の中に眠っていた、「何かを表現したい」「この熱狂にもっと彩りを加えたい」という衝動を呼び覚ましたのだ。
会社員である僕が、プロの絵師でもない僕が、無謀にもペンを取った。 ベリロンへの感謝と、この素晴らしいコミュニティへの愛を、自分なりの形で表現したかった。
そうして生まれたのが、僕の初めての二次創作「ベリーカブキアニマルズ」だった。
なぜ「カブキ」だったのか。 どうやって、あの顔の長い動物たちを、日本の伝統芸能の世界へと誘ったのか。
次回は、ただのファンだった平凡なサラリーマンが、勇気を出してクリエイターへの一歩を踏み出した物語。 「ベリーカブキアニマルズ」の誕生秘話について、お話ししたいと思う。