将来的に「国(中央銀行や政府)が公式に認めたステーブルコインを、ブロックチェーン上で発行する可能性は、ゼロではありません。ただし、実際にそうした仕組みが導入されるにはいくつかの重要なポイントやハードルが存在します。以下の観点から解説します。
1. 中央銀行デジタル通貨(CBDC)とステーブルコインの違い
- CBDC(Central Bank Digital Currency)
- 中央銀行が直接発行し、法定通貨と同等の価値をもつデジタル通貨。
- 日銀をはじめ、欧州中央銀行や米連邦準備制度など、多くの中央銀行が実証実験・研究を進めています。
- ステーブルコイン
- 通常は民間が発行し、法定通貨やその他資産を裏付けに価値を安定化させた暗号資産。
- 米ドルにペッグしたUSDCやUSDTなどが代表例。
- 2023年に日本で施行された改正資金決済法では、銀行や信託会社、登録を受けた資金移動業者などが「発行者」となれる枠組みが整備。
厳密には、政府や中央銀行がブロックチェーン上で「公式のデジタル通貨」を発行する場合は、従来のステーブルコインとはやや定義が異なり、CBDCに近い性質をもつと考えられます。ただし「国公認のステーブルコイン」という立て付けも理論上はあり得るため、今後どのような運用になるかは流動的です。
2. 政府・中央銀行が公式にステーブルコインを発行するシナリオ
2-1. 既存のCBDC研究の延長として
- 日銀デジタル通貨
- 2021~2023年にかけて、日銀はCBDCの概念実証(PoC)を実施。
- 今後は「パイロット実験」段階へ移行し、民間銀行や決済事業者と協力して技術検証を進める見込み。
- CBDCを「ブロックチェーン(分散台帳技術)で実装」する可能性
- 現時点では必ずしもブロックチェーンを使うとは限りませんが、分散台帳技術のメリット(改ざん耐性・稼働停止リスクの低減など)を評価し、採用する余地はあります。
2-2. 民間ステーブルコインに対する公的な裏付け・保障
- 政府や中央銀行の「担保」や「保証」を付与
- たとえば、銀行が発行する円ペッグ型のステーブルコインに対し、政府が一部保証する仕組みが制度化されれば、「公的裏付けをもつステーブルコイン」に近い形が実現する。
- これはCBDCというよりは、民間発行のステーブルコインに「国がセーフティネットを張る」アプローチと言えます。
3. 実現に向けた主な課題
3-1. 法整備・規制
- 資金決済法・銀行法・金融商品取引法などとの整合性
- ステーブルコインは「決済手段」「プリペイド型電子マネー」「証券に近い性質」など多面的に捉えられ、既存法との整合性を慎重に判断する必要がある。
- CBDCの場合、法的地位(法定通貨としての扱い)の明確化
- デジタル通貨が現行の日本銀行券(紙幣)と同等の機能をもつのか、という点に関して憲法や日本銀行法の改正などが必要になる可能性もある。
3-2. 技術面(スケーラビリティ・セキュリティ)
- 大規模トランザクション処理
- 全国民が日常的に使う通貨をブロックチェーン上で管理する場合、膨大な取引処理を安定稼働できるかが鍵。
- セキュリティ・障害対策
- ノード分散やスマートコントラクトのバグ、量子コンピュータへの耐性など、技術的課題の検討が必要。
3-3. ユーザー体験と金融インフラとの共存
- 既存の銀行インフラやATM、カード決済網との連携
- 急に「すべてデジタル通貨へ」というのは利用者の混乱を招くため、現行システムやユーザーの慣習との共存プロセスが必要。
- 導入のインセンティブ
- ユーザーや事業者が「わざわざブロックチェーン上のステーブルコイン/CBDCを使うメリット」を明確に示す必要がある。
- 手数料の低減、送金速度の向上、国際送金の簡易化など、既存手段との差別化が重要。
4. 可能性が高まる要因と将来の展望
- 海外動向
- 米国ではステーブルコイン規制の整備が進み、EUはMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)により暗号資産を包括的に規制。
- 中国はデジタル人民元(e-CNY)を急速に実証・導入しており、競争的な国際金融環境が形成されつつある。
- 国際送金や決済の効率化ニーズ
- ブロックチェーンを使った安価で高速な送金インフラは、クロスボーダー取引が増加する中で魅力的。
- 国際的な相互運用性を高めるため、各国のCBDCやステーブルコインが連携する方向性も模索されている。
- 国内では2023年施行の改正資金決済法
- これまでグレーゾーンだったステーブルコインが、銀行や信託会社等のライセンス保持者のみが発行可能という形で、一定の規制枠組みに収まった。
- 法整備が進むことで、企業側も安心してプロダクト開発ができるようになり、技術的・ビジネス的な進歩が促される可能性。
5. まとめ
- 「国(中央銀行や政府)が公式にブロックチェーン上でステーブルコインを発行する」可能性はゼロではない
- ただし、その場合は「CBDCとして公式に法定通貨化する」パターンと、「民間発行の円ペッグステーブルコインに公的保証を付与する」パターンなど、いくつかのシナリオが考えられます。
- 最大の課題は法制度整備と大規模運用を支える技術基盤
- 既存の金融インフラ、ユーザー慣習、データセキュリティなどを踏まえつつ、国際的動向とも整合を取りながら慎重に進める必要があります。
- 今後の方向性
- 日銀や金融庁の動向、欧米や中国など海外事例とのバランスを鑑みながら、CBDCやステーブルコインの実証実験→法整備→段階的導入 という流れが現実的です。
- いずれにせよ、デジタル通貨(CBDC)やステーブルコインは今後数年・数十年をかけて世界的に大きな変化をもたらす可能性が高いため、日本においても「公式な形」で実装されるシナリオは十分に考えられます。
以上のように、国が公式に認めたブロックチェーン上でのステーブルコイン(あるいはCBDC)が将来的に導入されるシナリオは、さまざまな法的・技術的・社会的課題を伴いながらも、決してありえない話ではないというのが現状です。国際競争力や金融インフラの高度化を念頭に、今後の動向から目が離せない分野と言えるでしょう。