概要
Devinは、Cognition社が開発した自律型AIソフトウェアエンジニアエージェントです。単なるAIチャットボットではなく、クラウド上の仮想マシン(VM)上でシェル、コードエディタ、Webブラウザを駆使し、タスクの計画から実行、コード生成、テスト、デバッグ、プルリクエスト作成まで一貫して自律的にこなします。ジュニアエンジニアをクラウド上で雇うようなイメージで、ソフトウェア開発の未来を体験できるツールとして注目されています。
主なテーマと重要なアイデア/事実
1. Devinの機能と特徴
- 自律型AIエージェント: 「AIのジュニアエンジニアをクラウド上で雇うようなイメージ」であり、タスクを依頼すると「はい、分かりました」と返答し、30分から1時間かけてバックグラウンドで自律的に作業を行い、結果を提示します。
- 実行環境の提供: ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)やGitHub Copilotのようなコード補完アシスタントとは異なり、「自立エージェントプラス実行環境」であり、シェル、コードエディタ、Webブラウザを備えた仮想マシン上で作業を行います。これにより、計画からコマンド実行、コード生成、テスト、プルリクエスト作成まで一貫して完了できます。
- 長時間のコンテキスト保持: VMスナップショット機能により、前回の作業状況を記憶し保持するため、複数日にわたる開発も中断することなく継続できます。
- 自己検証・自己修正: プログラムを自分で実行して正しく動作するか検証し、エラーが出た場合は自分で原因を特定して修正する能力があります。
- GitHub/CI/CD連携: GitHubアプリと連携することで、プルリクエストの作成、コメント、Git Actionsのログ確認などを自動化できます。特にCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)を設定することで、コードプッシュやプルリクエスト作成時に自動でテストを実行し、品質を確認できる点が強調されています。
2. Devinの活用メリット
- 開発プロセスの効率化: 「朝一とかでデビンにこれとこれとこれやっといといてって言ったら、バパって投げて、で昼過ぎ昼前とかに、あ、どんな感じかなって確認してOKだったらその変更を取り入れて、ダメだったらもう1回ちょっと修正依頼出してみたいな感じでやっていく」というように、人間が他の作業をしている間にDevinがバックグラウンドで開発を進めることができます。これにより、「何人もエンジニアを抱えている」ような感覚で作業を進められます。
- 非エンジニアでも開発可能: 開発経験がない人でもDevinに任せることで、コード開発を完全にお任せできます。
- 時間の購入: 「時間と労働力を買う体験」と表現されており、サウナに行っている間でもスマホから指示を出すだけで機能追加やプルリクエスト作成が行われるなど、自身の稼働時間外でも開発を進められる点が大きなメリットです。
- 並列処理: 相互に干渉しない複数のタスクを並行してDevinに実行させることができます。
- ドキュメント自動生成: Devin Wiki機能により、リポジトリ内のコードから自動で開発者向けのドキュメントを生成し、チームメンバーのキャッチアップを容易にします。
- 技術リサーチ: Devin Search機能により、リポジトリ内のコードに関する深いリサーチが可能です。
3. Devinの料金体系と利用開始
- 費用改定: 以前は月額500ドルのプランしかなかったが、2024年4月に「20ドルプラン」が追加され、「3000円払えばですね、Devinを使える」ようになり、個人でも手軽に利用開始できるようになりました。
- 招待特典: 招待URLから登録すると、登録者と招待者の両方に20ドル相当のクレジット(ACU)が付与されます。
- 課金単位: 作業量に応じて「エージェントコンピューターユニット(ACU)」という単位で課金されます。
4. Devinの得意なタスクと活用法
- 明確なゴールのタスク: 「変更数がね、まあ100から200行前後とかの、ま、ゴールが明確なタスク」を得意とします。
- ジュニアエンジニアに任せられる仕事: ライブラリのアップデート調査、単体テストの実装、バグ修正、機能削除、ドキュメント作成など、具体的な指示が出せるタスクに強いです。
- テスト駆動開発(TDD)との相性: テスト駆動開発と組み合わせることで、「Devinにとって何がOKなのかっていう基準がすごく明確になるのでめちゃくちゃ相性が良く進めてくれます」。最初に失敗するテストを作成させ、そのテストがパスするようにバグ修正やコード変更を行わせることで、効率的に開発を進められます。
- CI/CDの活用: CI(継続的インテグレーション)を設定することで、「コード変更しても動作が確認、動作がそのバグったらすぐここで分かるし、バグってなければってこともすぐ分かる」ため、Devinとの開発がしやすくなります。
- タスクの細分化: 「タスクは細分化」し、「1コミットとかもしくは1プルリクエストレベル」の「30分で終わる小タスク」として指示を出すのがコツです。曖昧な指示は誤ったアウトプットにつながりやすいと指摘されています。
- ナレッジとプレイブック: Devinの設定画面には「Devin's Resources (Knowledge & Playbooks)」があり、プロジェクト固有の情報や共通のエラーハンドリング方法などを「ナレッジ」として学習させたり、定型作業を「プレイブック」として登録することで、Devinを「教育」し、より賢く活用できます。
- 育成ゲームのような楽しさ: Devinにナレッジやドキュメントを通じてプロジェクトの知識を蓄えさせ、成長させていくプロセスは「育てる楽しさ」や「育成ゲームみたい」と評されています。
5. Devinの限界と注意点
- 実行環境の待ち時間: セッションごとに新規VMが必要となるため、待機時間が発生します。
- コスト管理: プロンプトの質やタスクの粒度がコストに直結するため、効率的な利用には適切なタスクの渡し方が重要です。
- 機密情報の取り扱い: 機密情報はシークレットマネージャー経由で渡すことが推奨され、適切なアクセス管理が必要です。
- 「Good First Issue」問題: 開発初期の簡単なタスク(Good First Issue)をDevinが得意とするため、人間のエンジニアがプロジェクトに参画し始める機会を奪う可能性が指摘されています。
- 曖昧な指示への対応: 「ジュニアのエンジニアなのでふわっとしたこと言うとふわっとした回答を投げてきてそうじゃないんだよなみたいなことに良く」なるため、指示は具体的かつ明確にする必要があります。
- 見た目の調整は人間が担当: UIの変更など、視覚的な確認が必要な作業は人間が担当することが推奨されています。
- 複雑なタスクの引き継ぎ: 複雑なプロジェクト全体をDevinだけに頼ると、同じミスを繰り返すなど、うまくいかない場合があります。その際は「実装のベースだけデビンに任し てそのあともう自分で手元で開発しちゃう」など、タスクを人間が引き継ぐのが効果的です。
- クローズドな情報に弱い: 情報がオープンなタスクは得意ですが、「会社内だけの固有の文脈を含むみたい なタスクはすげえ、あの、現状苦手」です。
- コードレビューの必要性: Devinが生成したコードも人間のコードレビューは依然として必要です。
Devinと他のAIコーディングツールの比較
- スケールアウト型 vs スケールアップ型:
- Devin: スケールアウト型であり、ユーザーが指示を出した後は「デビンが途中何やってるか全く見ないし出来上がってくるまで僕は別のことを考えられる」というように、並行して複数のタスクを進めることができます。
- Cursor/Copilot: スケールアップ型であり、ユーザーが作業しているものをアシストする前提で、自身の作業を高速化するツールです。
- 使い分け: 「カーソルをなんか基本的には使いながらもちょっと何かプラスアルファデビンでやっていく、あるいはま、え、ちょっと時間がなくなってきたらもうデビンに丸投げ」といった形で、自分の作業をスケールアップしつつ、Devinにスケールアウトできるタスクを任せるのが効果的とされています。
- 画面操作の有無: DevinはSlack連携を通じてスマホから指示を出し、Gitのコードチェックまで行えるため、パソコンの画面を見ずに丸投げに近い形で開発を進められます。一方、Cursorのようなツールは画面の前で操作が必要です。
まとめ
Devinは、自律的に開発プロセス全体をこなし、人間が他の作業に集中できる「AIエンジニア」として大きな可能性を秘めています。特にテスト駆動開発やCI/CDとの組み合わせ、タスクの細分化、明確な指示、ナレッジの活用が成功の鍵となります。20ドルからの利用が可能になったことで、多くのエンジニアがその「衝撃的な開発体験」を試すべき時が来ています。ただし、その能力を最大限に引き出すためには、AIの特性を理解し、適切な指示と管理が不可欠です。
タイムライン
- 2024年初頭: Cognition社がDevinのクローズドベータ版をリリースし、一時的に話題となる。
- 2024年12月: Devinが一般公開される。
- 2024年4月: Devinのバージョン2.0がリリースされ、大幅なバージョンアップと料金体系の改定が行われる。
- この改定により、従来の月額500ドルのプランに加え、月額20ドルからの従量課金プラン(コアプラン)が導入され、個人ユーザーが利用しやすくなる。
- UIと機能が刷新され、VS Codeとの統合、Devin Search(リポジトリ内検索)、Devin Wiki(自動ドキュメント生成)などの新機能が追加される。
- Devin 2.0リリース後 (4月以降):
- 多くのユーザーがDevinの利用を開始し、その高い生産性と「ジュニアエンジニアを雇うような」開発体験を評価。
- GitHubとの連携やSlack連携を活用した開発フローが推奨される。
- 特に、テスト駆動開発(TDD)との相性の良さが指摘され、テストファイルの自動生成からバグ修正、CI/CD連携まで一貫してDevinに任せることが可能になる。
- スコット・ウーが来日し、日本のエンジニアたちとDevinについて対談する。
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Devinに関するFAQ
1. DevinとはどのようなAIエージェントですか?
Devinは、Cognition社が開発した自律型のAIソフトウェアエンジニアです。単なるAIチャットボットやコード補完ツールとは異なり、クラウド上の仮想マシン(VM)上でシェル、コードエディタ、ウェブブラウザを備え、タスクの計画からコマンド実行、コード生成、テスト、デバッグ、プルリクエストの作成までを一貫して自律的に完了できます。例えるなら、ジュニアエンジニアをクラウド上で雇い、開発タスクを任せるようなイメージです。与えられた指示に基づいて、数十分から1時間程度で裏側で作業を進め、結果を報告してくれます。
2. DevinとChatGPTやGitHub Copilotなどの他のAIツールとの違いは何ですか?
ChatGPTのような汎用LLM(大規模言語モデル)は様々な質問に答える大規模言語モデルであり、GitHub CopilotのようなAIアシスタントはエディタ内でコード補完を行います。一方、Devinは「自律エージェント+実行環境」という点が大きく異なります。仮想マシン上で実際にコードを実行し、テストを行い、エラーがあれば自分で修正するといった一連の開発プロセスを自律的に行えるため、単なるアシスタントではなく、開発作業全体を任せられる「AIソフトウェアエンジニア」としての機能を提供します。また、ユーザーとの対話が単方向ではなく、作業中にリアルタイムで追加の指示を出せる点も特徴です。
3. Devinを利用するための料金体系はどのようになっていますか?
Devinの料金体系は、2024年4月に改定され、より利用しやすくなりました。以前は月額500ドル(約75,000円)のプランしかありませんでしたが、現在は最低20ドル(約3,000円)の「コアプラン」から利用できます。このコアプランは従量課金制で、使用した分だけクレジット(ACU: Agent Compute Unit)が消費されます。タスクが複雑であったり、会話のやり取りが増えたりするとACU消費量が増加します。より大規模な利用やチームでの利用を想定したプランもあります。また、友人からの招待URLを利用すると、追加のクレジットが付与される特典もあります。
4. Devinの主なメリットや得意なタスクは何ですか?
Devinは、主に以下のようなメリットや得意なタスクがあります。
- 時間と労働力の節約: 指示を出すだけで、Devinが裏側で作業を自律的に進めるため、ユーザーは他の作業に集中できます。まさに「バイトを雇っている」ような感覚で、開発プロセスを加速させることができます。
- 並列処理: 複数(コアプランでは最大10)のDevinセッションを並行して動かし、互いに干渉しない独立したタスクを同時に処理させることが可能です。
- ドキュメント生成: Devin Wikiという機能により、コードから自動的に開発者向けのドキュメントを生成し、チームのキャッチアップを容易にします。
- Deep Research: Devin Search機能で、連携したリポジトリ内のコードについて詳細な質問ができます。
- 明確なタスクの実行: 変更行数が100~200行程度のゴールが明確なタスク(ライブラリのアップデート、単体テストの実装、バグ修正、機能追加、ドキュメント作成など)を得意とします。ジュニアエンジニアに渡せるレベルの具体的な指示が出せる作業ほど、Devinは高いパフォーマンスを発揮します。
- 情報がオープンなプロジェクト: 公開されている情報が豊富にあるほど、Devinは得意とする傾向があります。一般的なアルゴリズムの実装なども可能です。
5. Devinを効果的に活用するためのコツや注意点はありますか?
Devinを効果的に活用するためには、いくつかのコツと注意点があります。
- タスクの細分化と具体的な指示: Devinはジュニアエンジニアのようなものと捉え、曖昧な指示ではなく、具体的かつ検証可能な単位(1コミットや1プルリクエストレベル、30分で終わるような小タスク)で指示を出すことが重要です。何が成功の基準なのかを明確に伝えることで、Devinが迷わず、期待通りのアウトプットを出す可能性が高まります。
- テスト駆動開発(TDD)との相性: テストコードを先に作成し、そのテストがパスすることを目指してDevinに開発を進めさせるテスト駆動開発は、Devinとの相性が抜群です。Devinにとって「何がOKか」が明確になるため、効率的にバグ修正や機能実装を進められます。
- CI/CD連携: GitHub ActionsなどのCI/CDツールと連携させることで、コードのプッシュ時やプルリクエスト作成時に自動的にテストを実行させ、品質チェックをDevinに任せることができます。
- 知識共有と教育: Devin Knowledge(ナレッジ)機能を使って、社内ルールやプロジェクト固有の前提知識、共通のエラーハンドリング方法などを学習させることで、Devinがより文脈を理解し、チームのやり方に合わせて作業を進めるようになります。Playbooks機能で定型作業の手順を覚えさせることも可能です。
- 人との連携: UIの最終調整や複雑なプロジェクトの最終20%など、人間による目視確認や判断が必要な部分は、人間が引き継ぐことを推奨します。Devinにすべてを任せようとせず、得意な部分を任せ、人間が最終的な調整を行うハイブリッドな開発が効率的です。
- 機密情報の取り扱い: 機密情報はSecret Manager経由で渡すなど、適切なアクセス管理と権限管理を行う必要があります。
6. Devin 2.0でどのような進化がありましたか?
Devin 2.0では、UIと機能が大幅に刷新されました。
- UIの進化: Web版のDevinがVS Codeと統合され、Devinが生成・修正したコードを直感的に操作できるようになりました。
- 新機能の追加:
- Devin Search: リポジトリ内を深く検索し、コードに関する質問に答えられる機能です。
- Devin Wiki: コードから自動的に開発者向けのドキュメントを生成する機能で、プロジェクトのキャッチアップを支援します。
- 価格改定: 月額500ドルのプランしかなかった以前と比べて、20ドルから利用できるコアプランが追加され、個人開発者や小規模チームでもアクセスしやすくなりました。
7. DevinとCursorやWindows CopilotなどのAIアシスタント型コーディングツールとの利用の使い分けは?
Devinは「スケールアウト型」のAIコーディングエージェントであり、複数の独立したタスクを並列で処理させ、ユーザーは別の作業に集中できます。一方、CursorやWindows Copilotなどは「スケールアップ型」のAIアシスタントであり、ユーザーが作業しているコードの高速化や効率化をサポートします。
理想的な使い分けとしては、CursorやWindows Copilotで目の前のミクロな開発作業を効率化しつつ、同時にDevinには「外出しできる簡単なタスク」や「並行して進められるタスク」をいくつか任せる、というハイブリッドなアプローチが考えられます。例えば、自分がUI開発を進めながら、Devinにはバックエンドの小さなバグ修正やドキュメント作成を依頼するといった形です。
8. Devinの導入を検討している場合、どのようなステップで始めるのが良いですか?
Devinの導入を検討している場合は、以下のステップで始めるのがおすすめです。
- GitHubアカウントの準備: Devinの利用にはGitHubアカウントが必須です。
- Devin AIウェブサイトでのアカウント作成: Devin AIの公式サイトにアクセスし、「Get Started」から登録します。この際、招待URLを利用すると、追加のクレジットが付与される特典があります。
- コアプランの選択: まずは最低20ドルのコアプランから始めて、Devinの機能や使い勝手を試してみるのが良いでしょう。
- GitHubリポジトリとの連携: 開発したいプロジェクトのGitHubリポジトリをDevinに登録します。
- 環境設定: プロジェクトの初期設定(依存関係のインストール、リンター設定、テスト設定など)をDevinに指示して自動化します。
- 簡単なタスクから試す: 最初はコードの解説、JSDocコメントの追加、簡単なバグ修正など、ゴールが明確な小さなタスクからDevinに任せてみましょう。
- テスト駆動開発の実践: テストコードを先に作成し、そのテストが通るようにDevinに修正を依頼することで、効率的な開発フローを体験できます。
- CI/CDの導入: GitHub ActionsなどのCI/CDワークフローを追加し、Devinが作成したコードが自動的にテストされるように設定することで、品質管理を自動化できます。
- フィードバックと教育: Devinの出力に対して積極的にフィードバックを与え、Knowledge機能などを活用してプロジェクト固有の知識を学習させることで、Devinのパフォーマンスを向上させることができます。
これらのステップを通じて、Devinを「育てる」ように活用することで、強力な開発パートナーとして最大限にその能力を引き出すことができるでしょう。